みこぼね

みのつまった、みをのりだすような、みもふたもない、みになること

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僕が網膜剥離になったとき(3)

私が網膜剥離(もうまくはくり)になった前後のことを書き続けている。

今回はその3。診断および手術当日。

これまでに書いたものはこちらから。


タクシーで病院に到着した時、診療開始時間の30分ほど前だったが、幸い入口は開いており中に入って待つことができた。

旅行先の病院に初めて訪れたので、もちろん初診だった。午後の診察が始まり、受付で目の現状を伝えすぐに検査と診断をしてもらうようお願いした。15分ほど待って順番が呼ばれ、診察室の中に入った。事前検査をしてくれた看護師は私のカルテを見て、生年月日が自分と同じだと話してくれた。そんなことは小学生の時以来初めてだったが、奇妙な偶然を感じた。


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医師は最初目視で私の目の状態を確認し、おそらく大丈夫なんじゃないかな、と言った。その言葉に私はかなり安心した。医師は瞳孔を開く薬を使ってより詳細な検査をすると告げた。


合計3回目薬をさし、30分後検査を開始した。医師は先ほどの楽観的な姿勢とは打って変わった。

医師「網膜剥離ですね」
「え? 本当ですか? 網膜剥離になる一歩手前とかではなくて」
医師「いいえ、網膜剥離です」


やはり心の奥底で思っていたことが現実になったと私は思った。
嫌な予感は的中してしまった。


診察室のパソコンはMacだった。私の眼球の写真を撮影し、ディスプレイに表示させた。言われないと素人では気付かないレベルだろうが、眼球上部に剥離が見られるという。

医師「すぐに手術をした方がよいでしょう。手術はレーザーで行いますが、保険がきいても3割負担で約5万円かかります。複数に分けて手術する場合も1回と見なしそれだけかかります。保険のない場合は15万円ほどです」
「(ちょっと高額なので)家族に相談してもいいですか? 待合室にいるので」
医師「それならご家族の方も診察室に来てもらってください」


医師の説明では、レーザーを使い剥離の起きた周辺を火傷させ、網膜を固定するという。剥離がこれ以上進まないようにするための手術だ。手術自体は10分ほどで終わると言う。ただし、保険が適用されても高額だ。しかし、これ以上症状が進むことを食い止めることができる可能性があるとのこと。手術をすることでリスクは低くなるとの事だった。やらないよりましといったレベルなのかもしれない。そう、医師はこんなとき絶対に治るとか大丈夫とは断言しない。医者にも結局はどうなるかはわからないのだ。

「手術に痛みはありますか? どのくらいの時間で終わりますか?」
医師「麻酔を使いますが、痛みは少しあるかもしれません。10分程度で終わります。うちのレーザーは一度に何発も打てるので速く済みます」


初めて訪れた場所で、初めてかかる医者にいきなり手術をしてもらうのは正直不安だった。手術というもの自体ほとんど経験したことがなかった。小さい時に頭をぶつけて2針縫ったくらいだ。しかし、そのまま剥離が進み放っておけば確実に失明すると告げられ、手術を決めた。手術に失敗することもあるのかとも聞こうと思ったが、結局聞かなかった。どうぜやるしかないのだ。


診察室の奥にある手術室にすぐに向かった。ベッドに横になるのかと思ったが、座ったまま行うようだ。器具に額と顎を押しつけ、頭が動かないように後ろ側からバンドで拘束する。部屋の明かりを消し、看護士が麻酔薬の目薬をさす。続いて眼球を特殊なコンタクトレンズで抑え(これはまったく痛みを感じなかったと思う)、すぐさま手術が始まった。痛みが多少あるとの事だったが、痛みというよりも目が疲れたときの重い感じがした。言いようのない感覚だ。嫌な気分がしたが、始まってしまったのからもうやめることはできない。レーザーの打たれるたびに鈍い重みが目に伝わる。フラッシュのような光が見えたのかぼんやりとした光だったのかは思い出せない。無音だったのか、医師がレーザーを打つ音があったのかも残念ながら思い出せない。とにかくどうしていいのか分からないままじっと耐えた。結局、手術は5分から10分の間程度の時間だったと思う。思ったよりも短くも感じられた。

しばらくして術後の写真を見せられ、どんな状態か説明を受けた。剥離のあった眼球上部の下の方の周辺にレーザーの痕が帯をなしている。丸いドットのような痕だ。それが幾重にも連なっており、剥離した箇所を円を描くように覆っている。この帯が剥離をこれ以上進行させないための壁となっている。

2週間は安静にするようにと医師は私に告げた(私はここで「なぜ2週間なのか」聞かなかったが、後日調べてみると、レーザーで焼いた箇所が固着するまでに有する時間のようだった)。安静とはどの程度のものなのか、これからホテルへ向かっても大丈夫か、歩いたりお風呂に入っても大丈夫か、いくつか気になることを聞いてみた。医者はとにかく安静にしていてほしい、熱い風呂は控え、シャワーが好ましい、あまり歩かず安静にと話した。
正直、私には安静という定義がわからなかった。どの程度までが安静なのか。寝たきりで目をつむっているのが安静なのか、少し歩いてもいいのか、首を回したりするのはどうなのか。結局、医師に何を聞いても「安静は安静」であり、自分で安静だと思うことをするほかなかった。医師はこれから連休に入り私の状態を確認できないので、これ以上症状が進まないよう念を押したかったのかもしれない。

今後症状が進行するとすれば視界の下の方から黒いカーテンのようなもので覆われるように見えなくなると言われた。眼球の上部が剥離しているので、それが広がり下の方から見えなくなるのだ(レンズの原理と同じで上の像は下へ投影されるということなのだろう)。黒いカーテンとは何とも怖い表現だ。手遅れになれば一生その部分は見えないのだ。
もしそんな暗闇が視界に入ったら、緊急外来を大至急受診するようにと言われた。その状態になると、レーザーで焼くのではなく、本格的な手術をするしかない。今日はシルバーウィーク初日で、しかも土曜日だったが幸いこの医院は開業していた。しかし明日以降の4日間の連休期間中は休みだ。とにかく、自分の目に見えるものを注意深く確認しながら当分は過ごさなくてはならない。

手術と診断がようやく終わった。医師に他の病院への紹介状を書いてもらい、会計を済ませた。病院に入り検査と手術のすべてで3時間、約5万2千円かかった。


外に出ると日差しはまだ強い。目薬のせいで余計に眩しいのだろう。
ホテルのバスが迎えに来るまでまだ時間があった。
駅近くの喫茶店には入り、コーヒーとケーキを頼む。
腹が減ったわけでもなかったが、甘いものが嬉しかった。


送迎バスは時間通りに迎えに来てくれた。
バスが動き出すと、もう辺りは薄暗かった。目に負担をかけないようにして景色もあまり見ないようにして車の動きに身をゆだねた。
30分ほどでバスはホテルに到着した。

とにかく、ひどく疲れた。


※文章はSiriを使って音声認識で下書きし、それをパソコンで校正したり編集したりして仕上げています。凝視して長時間書くことができないので、いつにも増して誤字や脱字などがあるかと思いますがご了承ください。

次回、その4を更新します。